
排水基準改正で酵素基質培地による
大腸菌検査が増加
~「ECブルー」「アキュディア™ XM-G寒天培地」を導入~
一般財団法人三重県環境保全事業団 様

水質汚濁防止法や建築基準法などの排水基準の改正に伴い、2025年(令和7年)4月から工場や施設からの排水や、河川や地下水などにおける糞便による汚染の指標が「大腸菌群数:3,000個/cm3以下(検査法:デソキシコレート寒天平板培養法)」から「大腸菌数:800 cfu/mL(検査法:特定酵素基質培地)」に変更されました。
島津ダイアグノスティクス株式会社では、これらの新しい基準に対応可能な簡便・迅速な微生物検査キットとして、酵素基質培地「ECブルー」シリーズや「アキュディア™ XM-G寒天培地」などを提案しています。
(「アキュディア™」は島津ダイアグノスティクス株式会社が取り扱う粉末・顆粒培地のブランド名)
今回は、すでにECブルーやXM-G寒天培地による大腸菌検査を実施している三重県環境保全事業団様を訪問し、科学分析部 第一分析課の瀬古直樹課長と齋藤靖行主幹に、法改正後の大腸菌・大腸菌群検査の状況などを伺いました。
同事業団では、主に三重県内の行政機関や事業者から委託される環境調査などを請け負っており、2025年の法改正以降、水質検査では、デソキシコレート寒天培地を用いる大腸菌群検査から、ECブルーやXM-G寒天培地を用いる大腸菌検査への移行が進んでいます。
水質基準の糞便汚染指標の変遷
~段階的に「大腸菌群数」から「大腸菌数」へ移行~
工場や施設などからの排水は、河川や地下水など水質悪化の原因となることから、水質汚濁防止法などで基準が規定されています。人や動物は共通して腸管内に大腸菌を保有することから、糞便による水質汚染の指標として「大腸菌」が適していることは、以前から認識されていました。一方で、水質に関する各種法令が公布された1970年代は、大腸菌を選択的に検出する簡便な技術が普及していなかったことから、その代替の指標として「大腸菌群」が用いられてきました。
しかしながら、大腸菌群とは、大腸菌以外の腸内細菌なども包含した分類であり、「糞便汚染を的確に反映した指標とは言えない」という指摘もされてきました。近年は、酵素基質培地を用いて大腸菌のみを検出する方法が普及しています。そうした検査技術の進化を反映して、2004年(平成16年)に水道法の水質基準、2007年(平成19年)に遊泳プールの衛生基準、2022年(令和4年)に環境基本法の環境基準、そして昨年(2025年、令和7年)には排水関連※の水質基準、および公衆浴場の浴槽水の基準において、糞便汚染の指標が大腸菌群から「大腸菌」に改正されました。
現時点(2026年1月)では、水浴場(海水浴場など)の水質の糞便汚染の指標では大腸菌群が規定されていますが、多くの分野で糞便汚染の指標が「大腸菌群」から「大腸菌」に変更されています。
※水質汚濁防止法施行令、建築基準法施行令、排水基準を定める省令、下水道法施行令
今後は自主検査でも「酵素基質培地」「大腸菌」が主流になる可能性
~現時点では大腸菌群検査(従来法)と大腸菌検査(酵素基質培地)の併用が主流~
2025年の法改正後、事業団では、法的な基準への適合性を確認するための検査(公定法の検査)は、ECブルーなどの酵素基質培地で実施しています。
一方で、事業者の中には、これまで通り、従来法(デソキシコレート寒天培地)による大腸菌群検査を継続するケースも多いようです。
その背景について、瀬古課長は「『排水で大腸菌が検出された場合、その前の段階で自主検査(モニタリング検査)として大腸菌群の検査をしておきたい』『これまで(上流の)自主的なモニタリング検査として大腸菌群を実施してきたので、これまでのデータと比較できるように、これまでと同じ検査(大腸菌群検査)を継続しておきたい』といった考え方があるようです」と説明しています。

つまり、現時点では「基準への適合性のための大腸菌検査」と「モニタリング検査としての大腸菌群検査(または過去のデータとの比較のための大腸菌群検査)」を併用する事業者も多いようです。
しかしながら、排水をはじめ、水質検査の糞便汚染の指標は、段階的に大腸菌へと移行が進んでいるのが現状です。
「今後は、工程管理やモニタリングのための自主検査も大腸菌にシフトしていく可能性は高いと思います。現在は大腸菌と大腸菌群、酵素基質培地法と従来法(デソキシコレート寒天培地による大腸菌群検査)が併用される『移行期間』のような時期かもしれません。酵素基質培地は、取り扱いの簡便性、検査時間の短縮や作業効率の向上(培地や試薬の調製が不要になる、結果の判定が容易になる、など)、結果の安定性、廃棄物の削減など、様々なメリットが期待されます。当事業団では、大腸菌・大腸菌群検査を実施できるスタッフは複数名いますが、基本的に1日の検査は1人で行うシフトを組んでいます。できるだけ作業時間を減らす(残業をなくす)、作業負担を減らすといった観点でも、今後、酵素基質培地による大腸菌検査が主流になることが望ましいのでは、と考えています」(瀬古課長)。
「特に環境調査の水質検査では、例えば1本の河川でも、上流から下流まで、上層から下層まで、といった具合に、様々な箇所から採水するため、検体数が多くなる傾向があります。さらに、事業団では検体到着から12時間以内に検査を開始することを原則としています。検体数が多いと、従来法(デソキシコレート寒天培地による大腸菌群検査)では、時間も手間もかかります。もし将来的に、公定検査も自主検査も、酵素基質培地による大腸菌検査に一本化されれば、検査効率の向上、検査業務に係る時間や手間の軽減などにつながると考えています」(齋藤主幹)
なお、同事業団では、検査スタッフの技術の質管理(内部精度管理)については、ISO 17025に沿った組織運営を行うほか、近隣の同業者と共同で共通の標準試料を用いた内部精度管理なども行っています(試料はビオメリュー・ジャパン株式会社の微生物定量試験用標準菌株「BIOBALL」を使用)。また、外部精度管理として、日本環境測定分析協会の技能試験にも参加しています。検査担当者の力量の維持・向上に積極的に取り組んでいるのは、同事業団の大きな特徴の一つです。

【参考】 酵素基質培地とは
~簡便・迅速な大腸菌検査「ECブルー」「XM-G寒天培地」~
酵素基質培地とは、細菌が保有する酵素と、培地中の特定の物質(基質)が反応し、培養後のコロニーを着色あるいは発光させることで、コロニーの計数や判定を容易にできる技術です。
ECブルーは、大腸菌群が特異的に保有・産生する酵素(β-ガラクトシダーゼ)により、培地中の発色酵素基質(X-GAL)が分解され、青~青緑色を呈します。また、大腸菌が特異的に保有・産生する酵素(β-グルクロニダーゼ)により培地中の蛍光酵素基質(4-MUG)が分解され、366 nmの紫外線を照射すると、蛍光を発します。一方、XM-G寒天培地は、大腸菌群が特異的に保有・産生する酵素(β-ガラクトシダーゼ)により培地中の発色酵素基質(MAGENTA-GAL)が分解され、ピンク~赤紫のコロニーを形成します。また、大腸菌が特異的に保有・産生する酵素(β-グルクロニダーゼ)により培地中の発色酵素基質(X-GLUC)が分解され、青~青紫のコロニーを形成します(参考1)。
三重県環境保全事業団では、この原理を応用した粉末培地「ECブルー」「アキュディア™ XM-G寒天培地」などをご利用いただいています。2025年の法改正を機に、大腸菌群から大腸菌の検査へ、デソキシコレート寒天培地からXM-G寒天培地による検査へと移行が進んでいます。
「ECブルー100」(写真1)は培地成分を使い捨てボトルに充填したもので、検水100 mLを加えるだけで、高精度の試験を行うことができます。秤量や培地調製などの作業が不要なため、培地調製時に作業者の技量によるバラツキが生じる懸念がなく、かつ検査時間の大幅な短縮に貢献します(島津ダイアグノスティクスでは、アルミスティックに培地成分を分包した「ECブルー100P」などの形態も取り扱っています)。「アキュディア™ XM-G寒天培地」(写真2)は、培地成分を溶解後、蒸気滅菌してシャーレに分注するタイプで、培地調製の時間を大幅に短縮できます。





【参考1】 酵素基質培地による大腸菌・大腸菌群の判定例

ECブルーによる大腸菌の判定例
366 nmの紫外線を照射して蛍光が確認された場合、大腸菌陽性と判定

ECブルーによる大腸菌群の判定例
自然光下で青~青緑色の呈色が確認された場合、大腸菌群陽性と判定

XM-G寒天培地の判定例
大腸菌は青~青紫色、大腸菌群はピンク~赤紫色のコロニーを形成
大腸菌と大腸菌群の発育支持能に優れ、損傷菌の検出にも有用
【参考2】 三重県環境保全事業団の組織・事業概要
三重県環境保全事業団は、1967年(昭和42年)に三重県内で水道水や環境水を分析ができる組織として、業団の前身である社団法人三重県環境衛生検査センターが設立され、主に市町村の環境の調査や分析を受託していました。その後、徐々に業務の幅が広がり、昭和52年には社団法人を発展的に解散し、現在の財団法人に移行しました。
現在は、主に「科学分析事業」「環境コンサルティング事業」「廃棄物処分事業」「社会貢献活動」の4つを事業の柱としています。
(1) 科学分析事業
科学分析の対象は、水道や食品、製品、医薬品、環境、大気など多岐にわたりますが、特に大気と水質及び製品に関する調査や分析が主業務となっています。科学分析部には第一/第二分析課が設置されており、第一分析課は主に大気や水質など環境関係の分析、第二分析課は環境以外の水質(プール、浴槽水、簡易専用など)及び製品の分析を担当しています。
瀬古氏は、科学分析部の強みについて「これまでに豊富な分析実績を蓄積しているので、様々な依頼に対してオーダーメイド的な対応ができる点」を挙げています。「例えば、日本の水道水のPFAS規制は『PFOSとPFOAの合計基準値で50 ng/L』と規定されていますが、当事業団ではPFOS・PFOA以外のPFAS及び関連物質も検査が可能です。また、国内の分析機関ではまだ少数ですが、製品及び排ガスや作業環境のPFAS分析も受け付けています」(瀬古氏)。

また、科学分析部では環境保全への貢献を目的に、業務や共同研究などで得られた知見を学会発表やセミナー、雑誌への投稿などを通して社会に情報を発信しています。
(2) 環境コンサルティング事業
環境負荷が環境保全の立場から、環境負荷の影響が少なくなるよう、企業などによる各種開発行為(例えばゴルフ場の開設など)に関して、環境アセスメント、自然環境調査、生活環境調査などをサポートする。その他、行政からの委託で、海域の生態系調査や、廃棄物の処理に関するコンサルティングなども手掛けています。
最近は、食品安全に関するコンサルティングとして、食品マネジメントシステム(FSMS)規格「JFS-A」「JFS-B」「JFS-B Plus」などの監査も行っています※。
※JFS規格については、一般財団法人食品安全マネジメントシステム協会のウェブサイトをご参照ください。
(3) 廃棄物処分事業
廃棄物処理法に基づく廃棄物処理センターの指定を受け、県内から発生する廃棄物の最終処分(埋め立て)を行っています。また、今後の発生が危惧される南海トラフ地震などの自然災害に伴い発生する災害廃棄物の受け皿としての役割も担っています。
加えて、処分場の周辺では、「洪水調整池」や、自然環境および景観に配慮した「せせらぎ緑地」、防災機能を備えた緑地公園「いこいの広場」なども運営しています。
(4) 社会貢献活動
三重県地球温暖化防止活動推進センターが主体となって、地球温暖化の現状や重要性に関する啓発活動や広報活動、家庭や事業所から排出される温室効果ガス削減の取り組みなどを推進しています。
それと並行して、三重県気候変動適応センターが主体となって、気候変動などに関する情報の収集や分析、国立環境研究所や県内研究機関との連携による情報収集などを実施しています。
