「グローバル市場で信頼される
微生物検査」を目指す

~国際的に信頼される培地で世界進出に挑む~

株式会社ドンレミー 様

2022年08月22日

プリンやゼリー、スフレ、ミルクレープ、フルーツをふんだんに使ったロールケーキなど多種多様な洋菓子で大人気の株式会社ドンレミー様では、全国の量販店やコンビニエンスストアのPB(プライベートブランド)商品のほか、約20品目の自社ブランド商品も取り扱っており、それらはFSSC 22000認証を取得した工場で製造しています。

ドンレミー様の「食の安全・安心」の取り組みを支える大きな要素の一つが「微生物検査」です。同社の製造拠点は群馬県と岡山県の2ヵ所にあり、いずれも微生物の自主検査では簡便・迅速な乾式簡易培地「コンパクトドライ」を全面的にご採用いただいています。

同社は現在、日本国内の少子高齢化の進行などを背景に、海外輸出の本格展開を見据えた衛生管理・品質管理のさらなる強化に努めておられます。海外の取引先から信頼されるためには、グローバル市場で信頼される「衛生管理・品質管理」のための「微生物検査」の運用が求められます。その一環として、ドンレミー様は「FSSC 22000認証の取得」と「国際認証を取得した簡便・迅速な培地の導入」に踏み切りました。

今回はドンレミー様の2工場におけるコンパクトドライ導入の経緯や効果について、榛名工場・品質管理室の岩井孝之室長、竹本優香様、八木典子様に伺いました。

2000年に竣工した群馬・榛名工場
品質管理室の竹本優香様(左)、八木典子様(右)

●“ドンレミー”の由来●

ドンレミーはフランス・パリから約350kmに位置する村の名称で、シャンパンとワインの生産地として知られています。「妖精が住む」といわれる自然に囲まれた村で、「ドンレミー」という社名には「ドンレミー村のような穏やかな幸せを感じられる、おいしいお菓子づくりを追求したい」という願いが込められています。

定番商品から季節限定商品までバラエティ豊かな洋菓子を製造。新鮮な原材料(牛乳、卵、果実など)にこだわっているので、品質管理・品質保証において微生物検査は非常に重要。

導入の決め手は「3種類の国際認証」

――はじめにFSSC 22000(以下FSSC)認証の取得に取り組んだ背景について伺います。

岩井氏 日本国内での少子化の進行、それに伴う人口の減少、あるいは企業としての今後の成長などを考えた時、海外輸出の促進は避けては通れない課題です。海外展開を進める上で、国際的な食品安全管理規格の認証取得は必須と考え、FSSC認証を取得することにしました。すでに中国や韓国、ハワイ、グアムなどのコンビニや量販店で当社商品の取り扱いはありますが、今後さらに輸出を強化していく方針です。

――微生物の自主検査でコンパクトドライを導入した背景について教えてください。

岩井氏 輸出を視野に入れる際、微生物検査も海外の取引先に信頼される体制でなければなりません。国際的な食品流通の現場では、微生物検査はISO法がスタンダードとして位置づけられていますが、「ISO法と同等である」と妥当性確認が行われた検査法であれば、簡便・迅速法であっても信頼して受け入れてもらえます。

当社では一般生菌、大腸菌・大腸菌群、黄色ブドウ球菌の検査が必須です。コンパクトドライの場合、それぞれ「TC」「EC」「X-SA」という培地が対応していますが、これらはすべて国際的な第三者機関による妥当性確認を受けており、AOAC-PTM、MicroVal、NordValという3種類の国際認証を取得しています。このことは、培地を選定する際の大きな決め手となりました。

――FSSC認証の取得後、微生物検査の体制に変化はありましたか。

岩井氏 当社では、群馬県の自治体HACCP認証(群馬県食品自主衛生管理認証制度)を取得するなど、以前からHACCPを念頭に置いた食品安全管理、衛生管理に取り組んでいました。

そのため、以前から微生物検査には力を入れており、「原料や最終製品が規格通りであることを確認するための検査」をはじめ、「工程管理(HACCP)の運用状況を検証するための検査」「環境の清浄度を確認するための検査」など、HACCPを的確に運用するために必要な検査は実施していました。そのため、FSSC認証を主とした後も検査体制に大きな変化はありません。

――簡便・迅速な微生物検査培地の導入は、以前から検討しておられたのでしょうか。

岩井氏 微生物検査を実施する際には、「目的に適合した検査か?」という点を吟味することが大切です。保健所が「食品衛生法の規格・基準に適合しているか?」を確認するのであれば(つまり法律への適合性を確認する検査の場合は)、その検査は食品衛生法で決められた方法(=公定法)で行わなければなりません。

しかし、個々の食品メーカーが自主検査で用いる培地や手順については、個々の事業者の判断に委ねられています。例えば、HACCPの運用状況を検証するための検査は、自主管理として行うものであり、必ずしも公定法にこだわる必要はありません。簡便・迅速な検査キットであっても、「目的に適合した検査」と言うことはできます。そのため、簡便・迅速な検査法の導入は積極的に検討をしていました。

ただし、簡便・迅速法による検査結果が信頼されるためには、第三者機関による妥当性確認を受けて「ISO法と同等である」と評価された(=認証を取得した)培地であることや、外部精度管理に参加して検査担当者の技能を確認しておくことが望ましいでしょう。

培地調製が不要、業務効率が劇的向上

――コンパクトドライの導入によって得られた効果は感じておられますか。

八木氏 検査業務の効率化もコンパクトドライを導入した目的の一つでした。従来の培養法では、培地の調製や、検査後の器具洗浄、廃棄などの作業に時間や労力がかかっていました。自分たちで培地調製をする場合には、どうしてもラボアクシデントの潜在的なリスクも考慮に入れなければなりません。また、培地調製が検査の精度に影響を及ぼす可能性もあります。

コンパクトドライの導入以降は、培地調製や器具洗浄などの作業が不要になり、業務の時間や労力は激減しました。従来の培地と比べて、結果の判定も迅速になりました。その結果、今まで最低2人いなければ対応できなかった業務が、1人でも対応できるようになりました。ラボアクシデントの懸念がなくなったことは、精神的な負担の軽減にもつながっていると思います。

竹本氏 培養に必要な保管スペースが大幅に縮小できたことも、大きな効果として感じています。培養のスペースだけでなく、以前は緊急時対応に備えて予備の培地も調製・保管しておく必要がありました。そうすると相応の保管スペースが必要になりますし、培地の使用期限の管理も必要です。コンパクトドライの導入によって、緊急時でもすぐに検査が始められるようになりました。

八木氏 コンパクトドライの導入と併せて、従来のガラスピペットをすべて自動ピペットに切り替えたり、使いやすいサンプリングキット(滅菌済みの緩衝液と綿棒が一体化したキット)を導入しました。こうした変化も作業効率の向上につながっています。

保管スペースは格段に減少。廃棄物も削減でき、環境負荷の低減、ひいてはSDGsにもつながっている。
コンパクトかつ蓋がピッタリ閉まるので、大量に積み重ねても簡単に持ち運べる。

作業効率改善のために自動ピペットや、滅菌済みの緩衝液と綿棒が一体化したサンプリング用キットなども導入した。

検査が増えても「ノー残業」、浮いた時間は品質管理の強化に

――検査項目や検体数について教えてください。

八木氏 一般生菌用「コンパクトドライTC」、大腸菌・大腸菌群用「コンパクトドライEC」、黄色ブドウ球菌用「コンパクトドライX-SA」の3種類を使用して、榛名工場と協力工場の検査を行っています。岡山工場でも同様の検査を行っています。一般生菌を24時間で検査できる迅速測定用「コンパクトドライTCR」についても、現在、効果的な併用の仕方を検討しているところです(注釈:TCの培養時間は48時間)。

製品検査の検体数は1日100~150検体くらいで、原料や中間製品などの検査、環境のふき取り検査や工程管理の検証のため検査などを加えると300検体を超えることもあります。

そこに緊急時対応の検査、新商品開発に係る検査などを行う日もありますが、コンパクトドライを導入したおかげで、検体数が増えても“残業なし”で対応できています。

今となっては、検査担当者は全員、「コンパクトドライに慣れたので、以前の検査法には戻せない」という意見で一致しています。

――総労働時間の削減を含む「働き方改革」にも効果を発揮しているのですね。

八木氏 当社の場合、品質管理室の業務は微生物検査だけでなく、品質管理・品質保証に係る業務全般に関わっています。例えば、FSSCの食品安全チームとしての活動(現場の衛生点検や改善指導など)や、表示の作成や点検、規格書の作成や管理、検便など従業員の健康管理、さらにはお客様からの問い合わせ対応に至るまで、業務は多岐にわたります。

当社の製品は「手づくり」へのこだわりが強いので、「品質管理の徹底=企業としての生命線」と言っても過言ではないくらい、品質管理を最重要課題として認識しています。これまで培地の準備や片づけに費やしていた時間を、品質管理や品質保証の業務の充実に費やせるようになったことは、大きな意味を持つ変化だったと思います。

――検体数を増やした箇所はありますか。

竹本氏 日々の保存検査を増やすことにしました。これまで保存検査については、あらかじめ計画を立てて実施していましたが、コンパクトドライのおかげで毎日でも保存検査ができるようになりました。はじめのうちは「検体を増やしても大丈夫か?」と不安もありましたが、何の問題もなく対応できています。

検体数が増えれば、その分だけ傾向が読み取れるようになってきます。検査結果を分析して、現場にフィードバックするなど、これまで以上に検査結果を有効活用できるようになりました。

――今後の課題として感じていることを教えてください。

竹本氏 判定やコロニーカウントには、コンパクトドライ専用のアプリケーションも使用しています。ただし、時折、判定に悩む場面はあり、その点は今後の課題と感じています。

ただし、そうした悩みがあった時には、日水製薬の担当者に助言をもらっています。サポート体制が充実していることも、コンパクトドライを導入したメリットの一つだと思います。例えば、コンパクトドライの活用法の一つとして、白金耳を用いて独立したコロニーの一部を釣り上げて、さらなる検査に使用するといった方法を教わったこともあります。

3種類の培地を使用。種類を間違えないよう、マジックで色を付けて識別している。
  培地にはQRコードを添付。検体情報から検査結果まで紐づけて管理することで、検査のトレーサビリティを確保している。

経営面での「見えない効果」ももたらす

――ドンレミー様の「製品の安全性確保と品質管理を重視する」という企業としての姿勢や風土を強く感じます。

岩井氏 食品企業において、検査部門は「利益を生まない部門」と言われることもあります。しかし当社の場合は、将来的な成長を考える上で、外部要因として「輸出拡大」、内部要因として「検査業務の効率化」は、品質管理室の重要な課題として認識していました。そうした課題解決の一環として、「FSSC認証の取得」と「国際認証を取得した簡便・迅速培地の導入」は必要な取り組みであり、「未来への投資」として位置づけています。

当社は「食の安全・安心」を最重要課題の一つとして認識しています。その課題実現のため、品質管理室は社長直轄の部門として位置づけています。コンパクトドライの導入は、検査に係る時間の短縮や労力の軽減といった「目に見える効果」をもたらしていますが、国内外での企業価値の向上、強固な顧客信頼の構築など、当社の将来につながる経営面での「見えない効果」もたくさんもたらしています。「FSSCやコンパクトドライを効果的に活用することが、当社の未来の基盤を築く」と信じて、今後も品質管理・品質保証の業務に努めていきたいと思います。