コンパクトドライ™で
検査業務を劇的に効率化!

~保存検査、緊急時の検査にも迅速・柔軟に対応~

株式会社榮太樓總本鋪様

2023年06月21日

創業1818年(文政元年)、200年以上の歴史を誇る飴や和菓子の老舗・株式会社榮太樓總本鋪様は、微生物検査業務の合理化・効率化の向上などを目的に、2013年に八王子工場を稼働したタイミングで、簡便・迅速な乾式簡易培地「コンパクトドライ」を本格的に導入しました。

八王子工場ではHACCPに基づく衛生管理を徹底しており、2020年にはJFS-B規格の適合証明も取得しています。その一方で、同社は取り扱うアイテム数が非常に多岐にわたり、衛生管理や品質管理、品質保証の体制整備は非常に重要な課題となります。

榮太樓總本鋪様は、社名にもなっている江戸時代からの銘菓「榮太樓飴」をはじめ、ようかんやぜんざい、金鍔、大福、どら焼きなど、幅広い種類の菓子を製造しています。また、伝統的な菓子だけでなく、常に時代の最先端を指向したモダンな菓子の開発にも尽力するなど、あらゆる世代から愛されている和菓子メーカーです。

今回は株式会社榮太樓總本鋪様が、いかにして老舗ブランドの安全・安心を守っているか、コンパクトドライを活用した微生物検査に焦点を当ててご紹介します。

※JFS-B規格:JFS規格は一般財団法人食品安全マネジメント協会(JFSM)が認証プログラムオーナーを務める日本発の食品安全管理規格。A~Cの3段階で構成され、Aは主に一般衛生管理をベースとした規格、Bは主に一般衛生管理とHACCPをベースとした規格、Cは一般衛生管理、HACCPにマネジメントの要素も加味した規格。JFS-Cは、FSSC 22000など国際的な食品安全管理規格と同等な規格として位置づけられている。

榮太樓總本鋪・八王子工場の外観
東京・日本橋の本社には飲食店も備えた店舗を併設
●コラム● 榮太樓總本鋪のルーツ

榮太樓總本鋪の歴史は今から200年前、1818年(文政元年)に武州(現在の埼玉県)飯能の菓子商人・細田徳兵衛が2人の孫(安太郎、安五郎)を連れて江戸に出たことに始まります。徳兵衛は現在の東京・九段下で煎餅焼きの商店「井筒屋」を開業しました。その後、井筒屋は安太郎が継ぎ、安五郎は別の菓子店に勤めます。
安五郎の長男・栄太郎は子供の頃から父を手伝い、現在の東京・日本橋で菓子の屋台店で焼き売りを始めます。19歳の時に父を亡くし、一家の長となります。栄太郎の作る金鍔は特に評判が良く、日本橋の魚河岸で働く人たちの間で、甘くて栄養価も高い菓子として人気を博しました。その後、栄太郎は1857年(安政4年)に店鋪「榮太樓」を構え、令和の現代まで続く基礎を築きました。

工場移転を機にコンパクトドライ導入

榮太樓總本鋪様は1956年から東京・調布市で工場を稼働していましたが、2013年に生産体制のさらなる強化を図るため、東京・八王子に新工場を竣工しました。調布工場では微生物検査の培地は自家調製していましたが、八王子工場に移転してからは全面的に簡便・迅速な乾式培地「コンパクトドライ」に切り替えました。
その背景について、品質管理部の高見澤アドバイザーと三浦部長に伺いました。

培地調製の時間削減で業務効率が劇的改善!

――コンパクトドライの導入を検討した背景について教えてください。

高見澤氏 調布工場では、自分たちで培地を調製して、公定法に沿った検査を実施していました。しかし、品質管理部の業務は検査だけではなく、衛生管理に関するあらゆる業務、それに付随する書類管理なども行わなければなりません。加えて、最近は総労働時間の削減を含む「働き方改革」への対応も求められています。また、検査担当者の人数も限られているので、検査業務の効率化、時間短縮は喫緊の課題でした。
検査業務の効率化を考えた時、培地調製や後片付けに要する時間は(公定法をやめて)簡便・迅速培地に切り替えれば大幅に削減できることは明らかだったので、簡便・迅速法の導入は前向きに検討しました。

――簡便・迅速培地は、自家調製と比べるとコストは上がると言われています。

高見澤氏 コストについては、検査業務全体のバランスを考えればメリットの方が大きいと判断しました。「検査時間の削減、業務負担の軽減が実現できれば、培地のコストを上回るコストベネフィットが得られる」という確信は持っていたので、「簡便・迅速法に切り替えるしか選択肢はない」と考えていました。今になって振り返れば、コンパクトドライの導入は必然だったと思います。

――その他、簡便・迅速培地のメリットを感じる場面はありますか?

三浦氏 培地調製の時間が不要になることに加え、培地調製に必要な試薬や道具も不要になります。また、緊急で検査の必要性が生じた場合でも、培地調製をせずに、即座に検査を始められることなどは、非常に大きなメリットと感じます。
また、シャーレと比べると、培養時にインキュベーター内のスペースを取りません。培養スペースは限られているので、コンパクトに保管できることも、非常に大きなメリットです。培地を常温で長期保管できる点も助かりますね。

保存検査の検体数が増加、自主検査でコンパクトドライが大活躍!

――コンパクトドライを用いて、現在、どのような検査を行っていますか?

三浦氏 製品検査や環境検査も行っていますが、特に多いのは保存検査(賞味期限設定のための検査)です。特に量販店やコンビニエンスストア向けの商品は、切り替えるサイクルが速く、多種類の季節商品も取り扱います。もちろん当社でも新商品、オリジナル商品の開発は活発に行っています。そのため自ずと保存検査の必要性は高まります。
検体数は1日20検体前後で、検体数は年々増加傾向にあります。検査項目は一般生菌、大腸菌群、黄色ブドウ球菌が中心です。原料に豆(あんこ)を使うので、必要に応じてセレウス菌の検査も行います。

“浮いた時間”で品質管理のさらなる向上を目指す

――工程管理(HACCP)と検査で食品安全や衛生管理を担保しているのですね。

高見澤氏 当社の取り扱い品目は「少量多品種」という特徴があります。大きく分類すると、飴、賞味期限の長いようかん、レトルト殺菌を施したぜんざい、みつ豆など、賞味期限の短い(消費期限を含む)和生菓子(どら焼き、金鍔、大福など)という、まったく特性の異なる商品を製造しています。そのため、すべての製品の安全性を検査で担保するのは現実的には困難です。
そのため、食品安全の確保のためには「HACCPの的確な運用」と「検査業務」の両面からアプローチが重要となってきます。HACCPでは、検査結果を有効に活用して、検証や改善につなげることも重要な活動です。検査業務に費やす時間を短縮できれば、その“浮いた時間”を他の業務に充てられるようになります。品質管理部の業務は検査だけではありません。品質管理や生産性のレベルアップにもつなげていかなければなりません。

検査室の様子

微生物検査室
品質管理部の三浦部長(左)と検査担当の山岸氏(右)
コンパクトドライはインキュベーター内の省スペース化につながる
コンパクトドライは常温で長期保管できる点も特徴
●コラム● 榮太樓總本鋪様の人気商品

榮太樓總本鋪様の主力商品は飴や和菓子で、主な販売先はスーパーマーケット、コンビニエンスストア、ショッピングモール、百貨店、空港や駅構内の売店など多岐にわたります。“老舗ならでは”のユニークな販路として、神社・仏閣でも古くから取り扱われています。近年はオンラインショップにも力を入れています。

今なお江戸の製法を守り続ける「梅ぼ志飴」や「名代金鍔」、現在の甘納豆のルーツともいわれる「甘名納糖」など、伝統的な和菓子を製造。HACCPに沿った衛生管理を運用する一方で、“職人の技”も存分に発揮されています。桜餅やおはぎなど季節商品もバラエティ豊かに取り扱っています。

HACCP制度化対応でJFS-B規格を運用

HACCP制度化時代における微生物検査の潮流

2021年からHACCP制度化が本格的に施行され、原則すべての食品事業者がHACCPに沿った衛生管理を実施しています。そうした“HACCP制度化時代”における微生物検査の在り方は、従前の「微生物検査は公定法に沿って行うべき」という考え方から徐々に変化しています。

食品衛生法で規定される規格・基準に対する適合性評価のための検査は「公定法」で実施しなければなりません。一方で、自主検査については必ずしも「公定法」にこだわる必要はなく、検査の“目的”に合致していれば「簡便・迅速な代替法」で対応することが、最近の潮流となりつつあります(ただし、簡便・迅速キットを用いる場合は「国際的な第三者機関による妥当性確認を受け、認証を取得したキットが望ましい」とも考えられています)。

そうした中、JFS-B規格の適合証明を取得している榮太樓總本鋪・八王子工場様では、取引先に提出する検査については外部検査機関に公定法による検査を依頼し、それ以外の自主検査については品質管理部がコンパクトドライで実施しています。

自主検査では、施設の衛生状態を確認するための検査や、工程管理(HACCP)が的確に運用されていることを検証するための検査、保存検査(消費期限設定のための検査)などが行われています(前述の通り、特に検体数が多いのは保存試験です)。

国際認証を取得した培地の信頼性

コンパクトドライの信頼性について、三浦氏は「公定法とコンパクトドライで検査結果に有意な差が生じないことは、導入前に検証しています。また、コンパクトドライは国際認証を取得した培地ですので、検査結果については取引先から十分な信頼を得ていると感じます」と説明してくださいました。

今後の簡便・迅速な代替法の在り方について、高見澤氏は「検査時間を短縮するニーズは今後ますます高まると思います。その流れの中で、当社はコンパクトドライを導入しました。HACCP制度化や人手不足など、さまざまな課題に直面している食品業界では、今後ますます多くの食品メーカーが、簡便・迅速な代替法の導入を検討すると予測されます。そうした時代に備えるには、流通段階や販売段階なども含めたフードチェーン全体で、代替法の位置づけや役割などの理解を共有できるようになることが望ましいと思います」と今後に向けた提言をいただきました。

おわりに

飴や和菓子などの“日本ならでは”の高品質な菓子は、日本が世界に誇る食文化の一つです。榮太樓總本鋪様の品質管理や衛生管理に対する妥協のない姿勢は、創業から200年以上にわたり継承してきた「社風」「企業文化」として経営の根底に根差していることが強く感じられました。

八王子工場の様子

八王子工場ではJFS-B規格に沿ったHACCPを運用している。作業を標準化する一方で、“職人の技術”を加味した手作業も多い。左写真は飴の製造作業、右は水ようかん、ぜんざいなどを製造するレトルト釜。