地域密着のスーパーマーケット店舗、
微生物検査で消費者信頼を維持!

~スタンプ培地で衛生管理レベル、スタッフの衛生意識を維持・向上~

株式会社伊徳様

2023年02月22日

秋田県と青森県で28店舗を展開するスーパーマーケットチェーン「いとく」は、1899年(明治32年)の創業以来、「地元密着」を明確なコンセプトとして掲げ、地域住民の生活のパートナーとして愛され続けています。特に同社オリジナルのデリカ惣菜は人気が高く、秋田をはじめとする東北の食材にこだわり、伝統的に受け継がれる調理法なども大切にしながら、日々、「地域から愛されるレシピ」の開発に取り組んでいます。

同社のオリジナル商品は、デリカセンター(惣菜工場)および店舗のバックヤードで製造・加工されています。同社の微生物検査は基本的に公定法で行われていますが、店舗の衛生点検では簡便・迅速なスタンプ型の簡易培地「フードスタンプ」が大きな効果を発揮しています。

同社のデリカセンターと店舗の衛生管理を監督する役割を担っているのが、販売本部 店舗支援室に設置された「食品衛生サポート」と呼ばれるユニットです。今回は店舗支援室の薩摩博隆室長と、食品衛生サポートの加賀麻衣子マネジャー、鏡谷亜希子さん、中川千鶴香さんに、フードスタンプの活用事例を中心に、同社の微生物検査体制について伺いました。

秋田・青森で28店舗を展開するスーパー「いとく」。「お客様の暮らしをより豊かにする、オススメのある売場づくり」がモットー。
秋田県大館市にあるデリカセンター(惣菜工場)。センター内に微生物検査室も設置されている。

フードスタンプで店舗スタッフの衛生意識を維持・向上

――秋田県と青森県でスーパー「いとく」を28店舗、秋田県内にデリカセンター(惣菜工場)を運営しています。はじめに店舗の衛生検査や微生物検査の体制について教えてください。

加賀氏 各店舗では「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」を運用しています。食品衛生サポートのスタッフは定期的に店舗を訪問して、衛生点検を行っています。その際に、手指や器具のふき取り検査、商品の抜き取り検査も行います。

商品の抜き取り検査は、検体を検査室に持ち帰って、公定法で一般生菌、大腸菌、黄色ブドウ球菌などの検査を行います。手指や器具の清浄度確認は、ATPふき取り検査を用いて「洗浄が適切に行われているか?」「洗浄方法は適切か?」といった観点でチェックします。ATPふき取り検査は、結果がその場で10秒程度で数値化できるので、測定値が高かった時(衛生状態に問題がありそうな時)には「一緒に洗浄手順を確認しましょう」といった感じで、その場で改善活動を行うことができます。

また、店舗では現場担当者が毎月、スタンプ状の培地「フードスタンプ」で、①まな板、②包丁、③包丁保管庫(包丁を差し込む箇所)、④手指の4か所を検査しています。今から25年ほど前、外部組織の衛生指導を受けた際、フードスタンプを使っているのを見て、当社としても「簡単に使えるキットなので、衛生意識の向上を図る際に有効なのでは?」と考え、導入したと聞いています。

――現場の担当者自身が、スタンプ作業を実施するのですか?

加賀氏 現場担当者が定期的にスタンプして、食品衛生サポートに培地を送付してもらいます。まな板、包丁および包丁保管庫については大腸菌群用のフードスタンプ、手指については(手のひらを)黄色ブドウ球菌用のフードスタンプで検査します。

現場スタッフが自主検査することで、衛生に対する意識が高まることには期待しています。やはり自分で検査した箇所の結果は気になりますし、衛生意識が高まれば、自ずと日頃の衛生管理でも目配りをするようになるものです。フードスタンプを利用することは、確実に衛生意識の向上につながっています。

――包丁保管庫を検査項目としているのは、なぜですか?

鏡谷 包丁保管庫はそれほど菌が検出される箇所ではありませんが、その一方で「毎日洗浄するが、洗浄がしにくい箇所」でもあります。そのため、「きちんと洗浄できているか?」「そもそも洗浄手順は適切か?マニュアルを見直す必要はないか?」といった観点でチェックしています。

――手洗いは「衛生管理の基本」ともいえる、非常に重要な検査箇所ですね。

中川氏 各店舗には手洗いマニュアルがあるので、食品衛生サポートが巡回する際には、まずは普段通りの手洗いをしてもらい、「手洗いマニュアルが守られているか?」「正しい手洗い手順が定着しているか?」といった観点でチェックしています。

新人さんや技能実習生など、手洗いの基本を特にしっかり教える必要がある場面では、ATPふき取り検査や手洗いチェッカー(蛍光塗料を用いて洗い残しを可視化するツール)、手のひら型の培地など、より視覚効果が高い、洗い残しの箇所が直感的にわかりやすいツールを併用することもあります。

――検査結果の共有や活用の際に注意していることはありますか?

加賀 手指の場合は、どうしても菌数が下がりにくい体質の人もいます。検査結果は店舗間でも共有できるようにしていますが、手指の検査結果については個人の名前が特定されないように配慮をしています。

店舗では、各部門のメンバーで構成される「衛生プロジェクト」を設置しています。毎月「衛生関連の不具合の兆候がないか?」などを議論したり、現場スタッフに「今月は特に〇〇に注意しましょう」といった注意喚起を行っています。その際、フードスタンプやATPふき取り検査の結果も活用しています。

食品衛生サポートは店舗と連携して、衛生管理の仕組みの改善を推進しています。例えば、まな板のフードスタンプ検査とATPふき取り検査で高い測定値になった現場がありました。その現場で原因を探したところ、「まな板の表面に傷が多い」という状況を見つけました。そこで、まな板を研磨や交換したところ、問題は解決されました。

あるいは、現場確認の際に「マニュアルが守られていない」という状況を見かけたことがありました。その場合は、マニュアルの記載事項に漏れがないか見直したり、衛生教育の徹底に努めることで改善につながりました。

●フードスタンプの活用事例●

整理・整頓・清潔が行き届いた検査室(デリカセンター内)。
右から店舗支援室の薩摩博隆氏、加賀麻衣子氏、鏡谷亜希子氏、中川千鶴香氏
再検査の場合は、フードスタンプと一緒に改善方法などを示した書類も送付。検査は衛生サポートと店舗をつなぐ重要なコミュニケーション・ツールでもある。
フードスタンプの使用例。環境表面に押し付けるだけで微生物検査ができる(白色は黄色ブドウ球菌用、赤色は大腸菌群用)。

公定法を基本に、簡便・迅速なコンパクトドライも併用

――デリカセンター(惣菜工場)の微生物検査の体制についても伺います。

加賀 デリカセンターでは一部「HACCPに基づく衛生管理」を運用しています。食品衛生サポートでは、衛生巡回や環境のATPふき取り検査や微生物検査、製品の抜き取り検査などを通じて、HACCPの運用状況をチェックしています。

検査室では、一般生菌、大腸菌、大腸菌群、黄色ブドウ球菌、セレウス菌、サルモネラ属菌、腸炎ビブリオ、クロストリジウム属菌、真菌の検査が可能です。基本的には一般生菌、大腸菌、大腸菌群の検査を行い、必要に応じて食中毒菌などの検査も組み合わせています。

平均すると1日10~20検体ほどを処理しています。新商品の開発は積極的に取り組んでいるので、保存検査(賞味期限設定や保存性を確認するための検査)は比較的多いです。

――微生物検査は公定法と代替法(簡便・迅速法)の併用ですか?

加賀 基本的には公定法で行いますが、緊急時の検査が必要な時や、検体数が多い時は、「コンパクトドライ」などの簡便・迅速な代替法を利用することもあります。

公定法は作業手順が煩雑で、時間もかかるので、培地調製が不要なコンパクトドライの有用性は実感しています。簡便・迅速培地は「培地調製が不要で、作業効率が劇的に向上する」「培養時間が短縮できる」「保管が省スペース化できる」「廃棄物が削減できる」など、さまざまなメリットがありますが、コンパクトドライは、それらの特長に加えて、冷蔵保管が不要(室温保管が可能)という点でも重宝しています。

現在、腸炎ビブリオやサルモネラ属菌などの食中毒菌についても、コンパクトドライの有用性を検討しているところです。食中毒菌の検査は、培地や試薬の種類が多く、作業手順も煩雑な場合が多いので、(簡便・迅速な代替法によって)検査の時間と労力は劇的に削減できると考えています。

●検査室の様子●

公定法のための粉末培地や、培地調製不要ですぐに検査を開始できる「コンパクトドライ」を目的に応じて使い分けている。
クリーンベンチ
繫忙期や緊急時の検査要請があった時などは「コンパクトドライ」も併用。室温保管できる点は大きな特長の一つ。
スティック分包タイプの粉末培地「Easy Medium」シリーズ。培地成分を秤量する手間がなくすぐに検査を開始でき、検査結果に個人差が生じにくい。
複数台のインキュベータが並ぶ。
保存試験の検体が多い(上の画像に写っているのは主力商品のきりたんぽ)。
パドル式ブレンダー「SMASHER」。検体の均質化の際に高い性能を発揮。作動中でも近くで電話が掛けられるほど静音性に優れる。
大容量の前後窓付き恒温水槽も設置。正確な温度調節が必要な大腸菌・大腸菌群の検査などで威力を発揮。

逆ピラミッド型の組織で“パートナー社員の声”を活かす

――店舗では、非常に多種類のオリジナル惣菜を開発しています。その原動力は、どこにあるのでしょう?

薩摩氏 地域の食卓を担うスーパーマーケットとして、食の豊かさを提案することが当社の使命と考えています。商品開発や売り場づくりなどで、最近、特に大事にしているのは女性スタッフの声に積極的に耳を傾けることです。当社ではパートタイマーの方々を「パートナー社員」と呼んでいます。パートナー社員の多くは、ひとたび仕事が終わると、食卓を担う主婦であり、「一番身近なお客様」となります。パートナー社員に大いに活躍してもらう、仕事にやりがいを感じてもらうことが、会社の活性化には欠かすことできない要素だと思います。

また、「いとく」が出店している秋田と青森は、他県と比較しても人口減少率が高く、高齢化率も年々上昇しています。近年は単独世帯と夫婦のみの世帯が50%を超えています。そうした地域特性を把握しながら、地域の伝統食の継承なども含めて、地域の食卓を豊かにするためのメニュー提案を継続することは、今後の当社の「存在意義」に関わってくる重要な課題として捉えています。

――「現場の力」を大切にしているのですね。

薩摩 当社は、いわゆる「トップダウン」のピラミッド型組織ではなく、「逆ピラミッド型」の組織を目指しています。食卓を熟知するパートナー社員の声を引き出し、そこから生まれるアイデアを売場での販売戦略に生かすことは、きっと地域の食生活の充実にもつながっていくと信じています。売り場で働く一人ひとりが「主役」となって活躍し、活き活きした店舗づくりに取り組むことが、われわれの理想とするところです。

――現場の「生の声」を取り入れて改善活動につなげるのも「食品衛生サポート」部門の役割ですね。

薩摩 食品衛生サポートは、いわば「社内の保健所」のような役割を担っています。衛生管理について改善を進めるには、現場からの情報が不可欠です。そのため、食品衛生サポートは店舗を訪問した時は「衛生関係で困っていること、悩んでいることがあれば、愚痴でも構わないので、何でも話してください」と積極的にコミュニケーションをとるように心がけています。

店舗の一人ひとりと信頼関係を築くことが、現場の「生の声」を拾い上げるためには大切です。現場の気持ちに寄り添い、一緒に課題の解決に臨むことが、衛生サポートの基本姿勢です。

――教育を特に重視している様子が感じられます。

薩摩 スーパーマーケットのスタッフである以上、おいしくて、安全で、衛生管理を徹底しているのは“当たり前”のことです。そういう企業としての風土や文化がしっかりと醸成され、浸透するよう、衛生教育、人材教育には重きを置いています。

日本スーパーマーケット協会の「お惣菜・お弁当大賞2023」で優秀賞を受賞したオリジナル惣菜。青森の鶏ムネ肉や秋田の塩麴もろみなどを使用。
デリカセンターで製造する秋田名物「きりたんぽ」と「だまこ」(きりたんぽのおだんご)。