食品衛生検査セミナー2025 開催報告
感染研・泉谷秀昌先生に阪崎利一賞を授与
~感染症の疫学的解析に多大な貢献~

  • 記事
  • 会員限定
  • 食品微生物検査
  • 食中毒菌

2025年10月15日

島津ダイアグノスティクス株式会社は2025年10月15日、神奈川・殿町の島津製作所・東京イノベーションプラザにおいて「食品衛生検査セミナー2025」を開催しました。本セミナーは毎年、食品検査の社会的意義を見つめ直す機会として、また最新情報を共有する場として、「阪崎利一賞」の表彰式と合わせて開催しているものです。

阪崎利一博士は、日本の食品微生物学の第一人者の一人で、腸内細菌科の微生物であるCronobacter sakazakii(クロノバクター・サカザキ)などの研究者として知られています。本賞は2010年に阪崎博士の多大な功績をたたえて創設され、過去に13人が表彰されました。

2025年度は国立感染症研究所の泉谷先生が受賞されました。島津ダイアグノスティクスの小野徳哉社長は授賞式の冒頭、今回の選考理由について「泉谷先生の国内外での功績は阪崎利一先生が生前に掲げられた『食品衛生検査の科学的な基礎強化と社会実装』という理念に深く通じるものと高く評価されている」と説明しました。

セミナーでは泉谷先生が受賞記念講演を行い、これまでに確立してきた腸管感染症の起因菌(腸管出血性大腸菌やサルモネラ属菌、ビブリオ属菌など)の検査技術や解析技術などを概説しました。

また、特別講演として、一般財団法人日本食品分析センターの小田俊一先生にご登壇いただき、食品微生物試験の培地上に出現するコロニーを観察する際の着眼点や、検査の原理・原則を理解することで、菌数以外にも多くの情報が得られることなどを、豊富な検査経験を交えてご講演いただきました。

そのほかにも、株式会社島津製作所の寺本華奈江先生に、ゲノム情報を基にしたタンパク質の理論質量データベースとプロテオミクス情報を利用して、これまで以上に簡便かつ高精度な微生物同定を可能にする、MALDI‐TOFMSのための新しいプラットフォーム「MicrobialTrack」についてご説明をいただきました。

泉谷先生(右)へ島津ダイアグノスティクス株式会社・小野社長から記念の盾などを授与

セミナーに先立ち小野社長からご挨拶
セミナーにはオンラインも併せて172名が受講

セミナー会場では島津ダイアグノスティクスが取り扱う衛生検査資材の展示も行いました

受賞講演
食水系感染症の原因菌とその検査・型別方法
~実践的なサーベイランスの視点から~

国立健康危機管理研究機構
国立感染症研究所 細菌第一部
泉谷 秀昌 先生

国立感染症研究所で約30年にわたり、細菌性腸管感染症(特に赤痢菌、コレラ菌、腸管出血性大腸菌など)の疫学的解析や判別法、検査技術の開発などに従事してきた。食品由来感染症の実態把握や検査体制の構築に関して、国内外で多大な功績を上げている。一例として、国内では厚生労働省の感染症調査技術(MLVA法)の整備をはじめ、様々な行政施策に科学的な見地から支援してきた。また、海外でも世界保健機関(WHO)や国際協力機構(JICA)などを通じて、食水系感染症の対策やサーベイランス・ネットワークの構築などの支援にも尽力している。

はじめに

私は、これまで主に腸管感染症起因菌の解析の研究などに携わってきました。その中で検査法や疫学マーカーなどを用いた菌の解析法を開発したり、実際に食中毒事例が発生した際には行政対応を行うための検査・調査や情報提供なども行っています。本日は、サルモネラ属菌や腸管出血性大腸菌を中心に、私が携わってきた検査法や解析法の変遷を振り返っていきます。

私が1996年に国立予防衛生研究所(予研、現在の国立健康危機管理研究機構 国立感染症研究所)に入所した時、阪崎利一先生はすでに退官しておられましたが、阪崎先生と田村和満先生の共著である「腸内細菌」(上下巻)や「図解・臨床細菌検査」などを教科書として読んで学んでいました。田村先生は、私が予研で最初に師事した先生で、細菌学の基礎から様々なことを教わりました。先生方から生化学性状試験などを教わる中で、田村先生と最初に関わったのが、日水製薬(現・島津ダイアグノスティクス)のIDテストでした。菌が送られてきたら、生化学性状試験を実施していました。当時使用していた日水製薬のソフトはPC9801シリーズのパソコンで動かすものでしたが、自分でもWindows上で簡易判定ソフトを自作するなどして、試験結果を出していたことを思い出します。

阪崎先生がCronobacter sakazakii(クロノバクター・サカザキ)という菌名の由来であることは、皆さんご存知かと思いますが、以前はEnterobacter(エンテロバクター)属に分類されていましたが、2008年にCronobacter属に再分類されました。この件については、私と渡邊治雄先生の共著で2009年5月にIASR(病原微生物検出情報、Infectious Agents Surveillance Report)に解説記事を投稿しています※。

ちなみに、IASRの創刊号(Vol.1, 1980年10月)で、阪崎先生は「わが国におけるサルモネラの現状」というタイトルで寄稿をしておられます。この寄稿では「サルモネラは、1950年代までは(医学者の間でさえも)ゲルトネル菌(Salmonella Enteritidis)の名の方が通じていたことからもわかるように、人の症例から分離される血清型の95%以上はS. Enteritidisであった。1955年頃からS. Enteritidisに代わってS. Typhimuriumが優勢を占めるようになってきた」といった、当時の状況が解説されています。興味のある方は、ぜひご一読ください。

※Enterobacter sakazakiiの再分類について, IASR, Vol. 30, p. 135-136