コンパクトドライが変える微生物検査の現場

HACCP制度化で高まる簡便・迅速な微生物検査のニーズ
検体数の増加、人手不足など様々な課題解決に貢献

北海道コカ・コーラプロダクツ株式会社 様、株式会社サイゼリヤ 様

2020年06月01日

近年、食品企業ではHACCP制度化の施行などを背景に、原材料や最終製品、中間製品、製造環境などの微生物検査の必要性が高まっています。一方で、従来からの公定法などの微生物検査法は、時間や労力がかかるなどの問題点も指摘されています。そこで注目を集めているのが“簡便・迅速な微生物検査キット”です。
今回は簡便・迅速な微生物検査法を、自主的な品質管理・衛生管理に効果的に活用している北海道コカ・コーラプロダクツ様とサイゼリヤ様の事例を対談形式で紹介していただきました。
(於・日水製薬株式会社 会議室)


北海道コカ・コーラプロダクツ株式会社
小林 邦浩 氏

北海道コカ・コーラプロダクツ株式会社札幌工場 品質管理部長。入社以来品質管理に携わり、現在は札幌工場の品質責任者。

株式会社サイゼリヤ
千田 理奈 氏

株式会社サイゼリヤ 品質保証室 主任。3年の店舗業務を経験後、本社品質保証室へ配属、現在は店舗の衛生管理に従事。

【司会・進行】
元 日本水産株式会社
食品分析センター所長

大橋 英治 氏

元 日本水産株式会社。食品分析センター所長、生活機能科学研究所長などを歴任。

1. 簡便・迅速な微生物検査法を導入した背景

環境検査など検査項目は増加傾向

大橋氏 はじめに両社の微生物検査の体制や、簡便・迅速検査の導入状況について教えてください。

小林氏 コカ・コーラグループでは、各工場に品質管理室を設置して、微生物検査や理化学検査などを行っています。当社の場合、以前はコカ・コーラやファンタなどの酸性飲料が主力商品で、品質面や安全面で問題となる微生物はカビや酵母でしたが、最近はお茶などの中性飲料の取り扱いが増え、カビ・酵母だけでなく一般生菌などの制御も重要な課題として考える必要性が高まってきました。また、当社では無菌充填飲料も製造しているため、常に「製造環境が無菌である」という確認も必要です。さらに加えて、当社では検査結果で合格判定が出るまで出荷できないルールとなっています。そのため、培養に時間がかかると、培地の保管スペースだけでなく、結果待ちの製品を保管するためのスペースも必要となります。
そうした背景から、簡便・迅速な検査法として日水製薬の乾式培地「コンパクトドライ」を採用しました。それにより、大量のサンプルの処理が可能になっただけでなく、緊急の検査要請があった際にも迅速に対応できるようになっています。

簡便・迅速な検査法として使用される日水製薬の「コンパクトドライ」
サイゼリヤの工場や店舗においても、簡便・迅速な微生物検査を実施

千田氏 サイゼリヤでは、国内4工場に、それぞれ品質管理課を設置しており、原材料や中間製品、最終製品の検査をはじめ、外部調達食材の検査、工程管理を検証するための検査、環境の衛生状態の検査、出荷品の保存検査などを行っています。
微生物検査の方法は、基本的には各工場の裁量で決めることが許容されています。一部を簡便・迅速法に切り替えた工場もあれば、ほとんどすべてを簡便・迅速法に切り替えた工場もあります。本部の品質保証室では、各工場の品質管理課と緊密なコミュニケーションをとりながら、工場の衛生管理に問題がないかチェックしたり、必要に応じて衛生教育を行ったりします。検査に用いるサンプル数は増加傾向にあり、簡便・迅速法を採用したメリットを実感しています。
また、本部の品質保証室では、国内に1000 以上ある店舗の衛生チェックも行います。店舗でふき取ったサンプルを本部に持ち帰り、簡便・迅速法で検査しています。店舗の衛生点検では、どうしてもサンプル数が多くなるので、簡便・迅速法は大きな効果を発揮しています。

コンパクトドライは膨大な検体数にも対応可能

大橋氏 北海道コカ・コーラプロダクツ様でのコンパクトドライの使用状況について教えてください。

小林氏 現在、工場では年間で約9万件の微生物サンプルを処理しています。そのうち2万件がコンパクトドライによる環境菌を含めた微生物試験件数となります。工程管理を重視していることで環境試験件数が圧倒的に増加しています。無菌充填を導入した当初は、今よりも多くの検査が必要で、1日で1000件近い検査を行ったこともあります。現在も、多い日には最大350件ほどの検査を行うことがあります。これら大量のサンプルをすべて混釈法で検査しようとすれば、培地の調製やコロニーカウントなどに膨大な時間や労力がかかりますし、相応の培養スペースも必要です。

コカ・コーラの工場では、コンパクトドライに よる試験数が年間約2万件にのぼる

大橋氏 北海道コカ・コーラプロダクツ様は、ディスペンサーのサニテーションも行っています。

コカ・コーラ工場での検査風景
“微生物検査のプロ”でなくても適切なサンプリングが可能

小林氏 北海道内に設置された約8000台のディスペンサーのサニテーションを行っており、その妥当性を確認するために水や装置の検査を実施しています。そのサンプル数は年間で約1万5000件に及びますが、コンパクトドライであれば、このサンプル数の処理も可能です。ちなみに、これらのサンプルは、サニテーション担当者が現地で採取し、品質管理部に送付します。サニテーション担当者は“微生物検査のプロ”ではないため、使用する培地には「誰でも適切なサンプリングができる」「サンプル輸送中、培地の密封性が高くコンタミリスクが低い」という特徴も必要でした。コンパクトドライは、これらの要件にも合致しています。

2. 簡便・迅速な微生物検査法の導入効果

誰でも短期間に「信頼できる検査」が可能に

大橋氏 簡便・迅速法では、特別な知識や手技がなくても、安定した検査結果が得られます。

小林氏 検査を実施する以上、どれだけ担当者が熟練の技術を持っていたとしても、人為的なエラー、特にコンタミの可能性をゼロにすることはできません。簡便・迅速法では、培地調製などの作業が不要になるので、コンタミリスクを低減できることは間違いありません。

千田氏 当社では、微生物検査について専門的な教育を受けていないスタッフが配属されることもあるため、簡便・迅速法の「専門的な知識や技術がなくても安定した検査結果が得られる」「短期間の教育で、安定した検査ができるようになる」という点は、非常に大きなメリットであると実感しています。

簡便・迅速法ではコンタミリスクを低減

大橋氏 検査業務では、個人の力量のバラツキをなくすことも重要な課題です。

小林氏 その取り組みの一環として、当社では品質管理部に配属された順に、日水製薬などが主催する外部精度管理に参加しています。サーベイに参加した人は、次に品質管理部に配属された人の指導を担当します。他者に教えることで、検査に関する理解や経験がさらに深まることに期待しています。

千田氏 当社では毎月、外部の検査機関に検査委託したサンプルを、各工場の品質管理課にも送付し、工場間で検査結果のバラツキがないか確認しています。「コラボ検査」と称しています。ちなみに現在、コラボ検査の結果などを参考に、各工場の検査方法の統一化を進めるか検討しているところです。

陽性が出た際の対応方針を事前に決めておく

大橋氏 簡便・迅速法をより効果的に活用するために考慮する点はありますか。

小林氏 新しい簡便・迅速法を採用する場合、それまでの検査法との相関性について十分に検証する必要があります。コンパクトドライに変更する際には膨大な検証を行いました。また、スタッフの微生物や検査に対する知識の問題もあります。当社の場合、微生物制御に関して問題が生じた際には、顕微鏡観察やグラム染色、コロニーから釣菌して同定するなどの微生物操作を行うことがあります。そのため、品質管理部に配属されたスタッフは、まずは顕微鏡観察の技術や、オープンな環境でのバーナーを使用した無菌操作の技術など基礎的な微生物取扱い技術を身につけることにしています。

コンパクトドライ導入の際は、従来の検査法 との相関性についても検証

千田氏 簡便・迅速法は大きなメリットが得られる一方で、検査結果を有効活用するために考慮すべき点もあると思います。例えば、一般的な寒天培地であれば、コロニーの性状で「どのような菌が多いか」などの情報が得られますが、簡便・迅速法では、そうした菌叢まではわかりません。
また、例えば公定法の大腸菌検査であれば、推定試験や確定試験など具体的なプロトコルが示されています。簡便・迅速法の場合も同様に、各社であらかじめ「陽性や疑陽性が出た場合の対応」を決めておく必要があります。

大橋氏 食品の微生物検査は、時代や環境のニーズに応じて、絶えず変化が求められます。簡便・迅速な検査法は、HACCP制度化や人手不足などの課題に対応するうえで、大きな効果を発揮していることが、よく分かりました。
簡便・迅速法の特徴を正しく理解することで、より効果的・効率的に活用できるようになると考えています。また、自社の検査法や検査体制について、対外的な透明性を確保する(取引先や消費者に明確に説明できるようにする)ことは、結果的に「検査室の信頼性確保」にもつながっていきます。今後も簡便・迅速法の導入効果を最大限に発揮していただきたいと思います。


コンパクトドライの現場から
“妥当性確認された簡便・迅速な微生物検査法”は、人手不足、環境対応などにも貢献

HACCPの構築・運用・維持管理に際しては、原材料や最終製品、中間製品、製造環境などの微生物検査の結果を、衛生管理や工程管理の改善に活用することが重要です。もちろん、新製品の開発などでも微生物検査の結果は必要です。そのため、近年は、多くの食品施設において、微生物検査の検体数が増加する傾向にあります。

しかし、従来から行われている公定法などの微生物検査は、「培地の調製などに手間がかかる」「培養に時間を要する」「検査担当者の技量によって結果にバラツキが生じる可能性がある」など、様々な課題も指摘されています。さらに加えて、最近は検査室でも人手不足の問題や、“働き方改革”への対応、廃棄物削減による環境負荷の低減などが求められており、検査業務の省力化、効率化、時短が求められてきています。また、食品衛生法で定められた規格への適合性を確認するための検査は公定法で行わなければなりませんが、自主検査であれば必ずしも公定法にこだわる必要はありません。

そうした背景から、HACCP(工程管理)の検証などでは、人手や時間をかけずに、短時間で、誰でも同じ結果が得られる“簡便・迅速な代替法”――特に海外の第三者機関(AOAC、AFNOR、MicroVal、NordValなど)による妥当性確認を受けた簡便・迅速な検査キットを有効活用することは、有効な選択肢の一つとして位置づけられています。