アレルゲン検査の基礎知識
食品におけるアレルゲン検査の基礎知識を紹介しています。アレルギーとは何かから検査法・アレルゲン管理の注意点について説明しています。
アレルギーとは?
アレルギーは、「原因食物を摂取した後に免疫学的機序を介して生体にとって不利益な症状が誘発される現象」と定義されています。日本における食物アレルギー患者は約300万人と推定されており、花粉症やダニアレルギーと比べると患者数は少ないですが、健康の維持に必須である食物が原因になるだけでなく、アナフィラキシーショックにより死亡する危険性もあるので、他のアレルギー疾患以上に問題は深刻です。食物アレルギーの原因はそのほとんどは食物タンパク質であり、それ以外の成分(脂質、糖質など)では基本的に食物アレルギーは起きません。
【食物アレルギーの実態】 即時型症例の原因食物の内訳
参考:消費者庁 食物アレルギー表示に関する情報
食物アレルギー表示について-アレルギー表示とはをもとに弊社作成
なぜ食品のアレルゲン検査が必要?
食物アレルギーを防止するには、原因食物を摂取しないことが最善の策です。食物アレルギー患者のほとんどは、「自分がどの食物でアレルギーを起こすのかを知っている」ため、加工食品に原材料表示が適正に行われることで食物アレルギー患者の食品を選択する幅が広がります。
このような背景から、平成13年4月の食品衛生法関連法令の改定に伴い、アレルギー表示制度が平成14年4月より世界に先駆けて本格的に開始されました。アレルギー表示制度では、表示対象品目は特定原材料(重篤度・症例数が多いため、その表示が義務付けられている品目)と特定原材料に準ずる表示奨励品目(過去に一定の頻度でアレルギーの発症が確認されているため、表示が奨励されている品目)にわけられていますが、現時点(令和5年3月)では前者は8品目、後者は20品目となっています。また、可能性表示(入っているかもしれない)は禁止されています。
アレルギー表示制度は、食物アレルギー患者が安全に食品を選べるように即時型食物アレルギー全国モニタリング調査などの結果より適宜見直しが行われています。
特定原材料等
根拠規定 | 特定原材料等の名称 | 理由 | 表示の義務 |
---|---|---|---|
食品表示基準 (特定原材料) |
えび、かに、小麦、そば、卵、乳、落花生(ピーナッツ)、くるみ | 特に発症数、重篤度から勘案して表示する必要性の高いもの。 | 表示義務 |
消費者庁次長通知 (特定原材料に準ずるもの) |
アーモンド、あわび、いか、いくら、オレンジ、カシューナッツ、キウイフルーツ、牛肉、ごま、さけ、さば、大豆、鶏肉、バナナ、豚肉、マカダミアナッツ、もも、やまいも、りんご、ゼラチン | 症例数や重篤な症状を呈する者の数が継続して相当数みられるが、特定原材料に比べると少ないもの。特定原材料とするか否かについては、今後、引き続き調査を行うことが必要。 | 表示を推奨 |
参考:消費者庁 食物アレルギー表示に関する情報 食物アレルギー表示について
アレルギーを誘発する抗原濃度はどのくらい?
アレルギー症状を誘発する抗原量は総タンパク質として、mg/mL(g)濃度レベルは確実に誘発、μg/mL(g)濃度レベルは誘発に個人差がある、ng/mL(g)濃度レベルではほぼ誘発しないと考えられていることから、数μg/mL(数μg/g)濃度レベル以上の特定原材料等の総タンパク質量を含有する食品については表示が必要と判断され、10 ppm(10 μg/g)が基準値とされています。タンパク質は加熱・殺菌では残存の可能性があり、洗浄によるアレルゲンタンパク質の完全除去が必須です。そのため、製造工程中のコンタミネーション(製品への特定原材料等の意図せぬ混入)も含めリスク管理を実施することが重要です。
抗原濃度のイメージ
参考:
食品表示基準Q&A(最終改正 令和6年4月1日消食表第214号)
https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/food_sanitation/allergy/assets/food_labeling_cms204_230309_02.pdf
アレルギー物質を含む食品の検査方法について(平成22年9月10日消食表第286号)https://www.cao.go.jp/consumer/history/02/kabusoshiki/syokuhinhyouji/doc/130530_shiryou2-6-1.pdf
アレルギー物質の検査の方法は?
アレルギー表示制度の開始とともに適正な表示を行うための特定原材料の検査方法が、平成14年11月に厚生労働省通知法(通知法)より、定量検査法としてELISA法(Enzyme-Linked Immunosorbent Assay)、定性検査法としてPCR(Polymerase Chain Reaction)法またはウエスタンブロット法(WB法)が示されました。これらの検査法は卵、乳、小麦、そば、落花生、えび・かに、大豆、ごま、くるみで市販化されています。
ELISA法に用いる標準品については、原料および抽出方法を含めて規格化されて共通の標準品を用いることとなっています。表示の必要性は食品中に含まれる特定原材料の総タンパク質濃度により判断されることから、標準品は特定原材料の総タンパク質濃度で値付けされています。したがって、異なる企業のELISA法で検査した場合も、同一のものさしを用いることで結果の整合性が取れるようになっています。
スクリーニング検査、確認検査とは?
通知法に示されている検査方法は、まず上述の特性の異なる ELISA法から 2種類を用いて定量スクリーニングを行い、両法で得られた結果と製造記録の確認に基づいて、表示が適正か判断されます。しかし、ELISA法は定量が可能な反面、測定対象タンパク質が近縁種ではアミノ酸配列の相同性が高いことから交差反応が起こることがあります。そのため、ELISA法の結果と製造記録から判断が不可能な場合は、測定対象物質を特異的に検出可能な PCR法や WB法による定性検査法(確認検査)を行うことになっています。PCR法は、標的となる DNA上の特定の領域を PCR反応により増幅し、標的 DNAを特異的に検出する方法です。小麦の場合、ELISA法では大麦やライ麦といった近縁種と強く交差反応を起こして鑑別が困難ですが、PCR法では特異的に検出が可能です。一方、卵の場合は鶏卵と鶏肉の遺伝子が同一であるため、PCR法では鑑別が不可能です。同様に乳の場合も乳と牛肉の遺伝子は同一で識別できません。したがって、卵および乳の確認検査には WB法が用いられています。
公定法に示されている方法は、高感度、特異性が高いなど性能に優れた方法ですが、予期せぬ食物アレルギー物質の混入や製造ラインを介したコンタミネーションなどを回避するためには迅速な検査方法が有用であり、公定法が適さない場合もあります。このような需要にこたえる検査方法としてイムノクロマト法があり、自主検査として広く利用されています。
アレルゲン管理の注意点は?
アレルゲン管理を行うための検査には主に、環境検査、原材料検査、ふき取り検査、中間製品検査、最終製品検査があります。環境検査は、施設内汚染の確認で粉末原料の飛散、製造機からの飛散状況などを検査します。原材料検査は、原材料受入時に主に試験成績書の確認を行います。ふき取り検査は、設備等の洗浄度を確認するために汚れが残っている可能性が高い箇所をふき取って検査を行います。中間製品検査では中間製品を抜き取って、コンタミネーションの有無を確認します。最終製品検査では表示内容との整合性確認と出荷判定を行います。拭取り検査や中間製品検査におけるコンタミネーションの有無を簡易・迅速に判断することが必要な場合はイムノクロマト法による検査が適しています。一方、最終製品検査のような定量値が求められるような場合は ELISA法による検査が適しています。
アレルゲン検査の必要器材は?
器具 | 用途 |
---|---|
ミルミキサー | 食品の粉砕・均質化に使用します。 |
秤量天秤 | 食品の秤量(1g)に使用します。 |
ポリプロピレン製遠心管(50mL) | 食品を抽出するために使用します。 |
メスシリンダー、プラスチックピペット | 検体抽出液、検体希釈液の調製に使用します。 |
ボルテックスミキサー | 食品を検体抽出液中に分散させるために使用します。 |
振とう機 | 食品を抽出するために使用します。 |
遠心分離機 | 3,000×g以上の遠心加速度の出せるものが必要です。 |
ろ紙 | 抽出液のろ過操作に使用します。 |
マイクロピペット | 50μL~1000μLの範囲で操作できるものが必要です。 |
ポリプロピレン製チューブ(1.5mL) | 標準溶液の調製および測定溶液の希釈に使用します。 |
プレートリーダー(ELISA法のみ使用) | 単波長の場合:450nm 2波長の場合:主波長 450nm、副波長 600~650nmで測定できるものが必要です。 |