カビの基礎知識 - 応用編3. カビを検査する(準備編)
カビ検査には定期の日常業務が多いでしょうが、それ以外に苦情や汚染、事故が発生した場合にも検査することがあるでしょう。また環境調査をする場合もあるでしょう。いずれにしても培養し、そして結果がどうであったかの確認(評価)をします。その中で担当者がいろいろ工夫して対応できることがたくさんあります。

検査環境
少し具体的に検査環境からみていきましょう。カビの飛散を防ぐために以下のような環境に心がけてください。この中でどれが最も重要かはそれぞれの施設で考えてください。
- 空気の流れが弱いか、ない
- 検査室は器材が近くにあり、広すぎない方が望ましい
- 空間除菌できるようにする
- 空調機による送風は直接検査している方に向けない
- 人の出入りを制限する
- 廃棄物容器は大きくない方がよい(なるべくこまめに廃棄するため)
- 消毒薬(エタノール)は常に常備しておく
- 清潔な検査台は整理整頓する
- 検査前後の消毒を励行する
カビ検査用機器
カビ検査用の機器類は検査に合わせて準備できるとよいでしょう。
以下に代表的な機器類を記載しますが、必要とするかどうかはそれぞれの施設で判断しましょう。
安全キャビネット
感染性の微生物を扱うときに、作業者自身が暴露されないために使用します。
クリーンベンチ
フイルター除菌された清浄な作業空間(無菌状態)で試料を取り扱うことができます。
無菌箱
覆った無菌容器内で検査を実施します。
開放系検査台
室内でカビの飛散を防止しながら検査を行います。
オートクレーブ(高圧蒸気滅菌器)
培地や検査用試薬など121℃、15分滅菌を行います。
インキュベーター
カビの培養には一般に25~29℃の範囲で行うことが多いです。
天秤
試料をはかります 。
単位は、mg(ミリグラム)、g(グラム)です。
ストマッカー
試料を粉砕均一にします。
光学顕微鏡
カビの形態など観察用として用います。
倍率として40、100、200、400倍範囲で使用します。カビ観察には必須です。
実体顕微鏡
カビなどを立体的な状態で観察します。
カビ検査用器具
検査に使う器材は対象とするものにより多少異なりますが、以下の器材でどれが必需器材かは各施設で選択してください。ここではカビの検査一般に使用されるものを挙げています。
スライドガラス、カバーガラス

血球計算盤(改良型ノイバウエル)

かぎ型エーゼ 直線型エーゼ

U字管

コンラージ棒

マイクロピペット、チップ

キューブミキサー または試験管ブレンダー

メス

- ピンセット
- シャーレ(プラスチック、ガラス)
- 薬包紙、薬さじ
- メスシリンダー
- ピペッター
- パスツールピペット
- 試験管、シリコンキャップ、アルミキャップ
- カウンター
- 三角フラスコ
- その他:沪紙、アルコールスプレー、アルコール綿
培養容器・培地
カビを培養する場合は、主にシャーレを用いることが多いです。シャーレには浅型と深型がありますが、いずれでも構いません。大きさは直径90 mmが一般的です。
また、カビ培養に必要な培地は主に寒天培地を用いますが、検査の目的によって培地の選択が必要な場合もあります。基本は以下の3種類になります。
- 一般カビ用
ポテトデキストロース寒天培地(PDA) - 乾燥基質、高糖、高塩基質用
M40Y 寒天培地
DG18 寒天培地

ポテトデキストロース寒天培地(PDA)
一般カビの培養
ジャガイモ | 200 g |
---|---|
寒天 | 20 g |
ブドウ糖 | 15 g |
精製水 | 1,000 mL |
*市販粉末培地がありますのでそれを使用してください。
M40Y寒天培地(M40YA)
好稠性(好乾性)カビの培養
ショ糖 | 400 g |
---|---|
麦芽エキス | 20 g |
酵母エキス | 5 g |
寒天 | 20 g |
精製水 | 1,000 mL |
*市販培地はないのでこの組成で作製してください。
※ 特注品生培地
DG18寒天培地 好稠性(好乾性)カビの培養
グルコース | 10 g |
---|---|
ペプトン | 5 g |
KH2PO4 | 1 g |
MgSO4・7H2O | 0.5 g |
グリセリン | 220 g |
ジクロラン(0.2%液) | 1 mL |
クロラムフェニコール | 0.1 g |
寒天 | 15 g |
精製水 | 1,000 mL |
*ジクロランはエタノールに溶かし、0.2%液にしておきます。市販粉末培地があります。
その他以下のような培地がありますが、研究用や特殊な試料培養に限りますのでここでは省きます。
- セルロース寒天培地 繊維質の多い基質から分離
- ツアペック寒天培地(CzA) 半合成培地 Penicillium 同定用培地
- コーンミール寒天培地 植物など天然基質から分離培養
- ポテトキャロット寒天培地 貧栄養培地 胞子産生能の低いカビ分離
- サブローデキストロース寒天培地(SDA) 一般カビ用培地
培地作製時および管理使用における注意点
細菌でも培地を使いますがカビには以下の点に注意して作製してください。また市販の培地を使用する場合は製造会社によって微妙な組成の違いにより、コロニーの性状が異なって見える場合があるため、どの培地を使用するか各自で判断してください。
培地作製時(培地)の注意点及びポイント
- オートクレーブ条件 121℃、15分
- 培地に流す際の培地温度は45℃前後とする
※固化しないよう注意しながら分注する - 平板当たり約20 mL流す
- 固化後1昼夜自然乾燥する
- 乾燥を防ぐために袋に入れ保管する
- 培地名、作製日、作製者を記入する
- 保管は室温または冷蔵とする
- 使用期限を決める(例 室温保管時は状況により1~2か月)
その間にコンタミがないか点検し、あった場合は除去し他に被害が及んでいないか観察する
オートクレーブ条件は変えないでください。基本は121℃、15分です。細菌では20分とする場合がありますが、カビは15分までです。その理由として、カビでは糖類を使用しますが、糖類は加熱しすぎると分離する可能性があるので15分とします。
シャーレに撒いた後は自然固化を進めます。つまり強制固化はしません。さらに固化後一昼夜自然乾燥します。翌日無菌袋に回収して保存します。
管理時(培養)の注意点及びポイント
培養温度
通常は25℃から30℃の範囲が多いです。
25℃以下になると生え方が弱くなります。また30℃以上になると生え方が弱いか生えなくなります。
培養期間
一般には1週間です。なお、乾燥性試料や塩分の多いまたは糖分の多い特異的な性状の試料では2週間程度になる場合があります。

さらに、培養する寒天培地はインキュベーターにそのまま入れるのではなく、必ずタッパーのようなフタのできる容器内で培養することが重要です。理由は以下の2点です。
- 培地の乾燥を防ぐため(カビは長期培養をすることが多い)。
- インキュベーターの汚染を防ぐため(カビの種類によっては、シャーレのふちから菌糸がはみ出してくるものもある)。
試薬
カビ検査には一般に以下のような試薬が使われます。微生物試験でもカビは培養する時や標本作製する時にカビ検査特有の試薬があります。
抗生物質(クロラムフェニコール)
細菌の増殖を抑えるために添加します。添加量は培地1 mLあたり50 μg(50 ㎎/L)です。
オートクレーブ滅菌の前に加えます。
高濃度のクロラムフェニコール液(50 ㎎ /mLエタノール)を作り置きしておくと便利です。
無水エタノール
試薬の溶解や安定性を維持するために使います。
例)クロラムフェニコールの溶解
0.05%Tween80加生理食塩液
カビの胞子は疎水性です。界面活性剤として用います。
例)胞子液作製
封入液・染色液

ラクトフェノール(LP)、ラクトフェノール・コットンブルー(LPCB)
消毒薬
70%エタノール、塩素剤、塩化ベンザルコニウム等